東京五輪マラソン日本代表が決まる!! MGCの男子レース予想と知っておきたいポイント!

いよいよ明日、東京五輪のマラソン日本代表選考レースMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)が開催されます。
昨年は男子が2度の日本記録更新など、日本マラソン界が盛り上がり、代表選考はより一層熾烈になっています。

MGCは9/15(日)に東京で開催され、テレビ放送もあるため、観戦する人が多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、注目選手・見所などを説明し、MGCをもっと楽しめるようにしていきます!

従来の選考システムと東京五輪の代表選考システム「MGC」

東京五輪の代表選考システムとして採用された代表選考システムMGC。これはこれまでの代表選考システムの課題を解決するための新しい仕組みです。

まずは、日本代表はこれまでどうやって決まってきたのか。そして東京五輪はどうやって決まるのかを解説します。

従来の選考システム

選考レース

福岡国際マラソン
別府大分毎日マラソン
東京マラソン
びわ湖毎日マラソン

※前年度のアジア大会や世界選手権の実績が考慮されて選出されたケースもある

時期

最終選考レースである、びわ湖毎日マラソン終了後の3月中旬に決定

課題

条件面の違い

風や雨・気温・レースの展開・ペーサーの設定タイムなど、様々な要因がタイムを左右します。そのため、タイム・順位を比較して複数選手が遜色ない結果の時、選考が極めて難しく、毎回選考に物議を醸してきました。

選出時期

3月中旬に代表が決定したら、本戦は8月に開催されるため、準備期間が短くマラソンのように長期のトレーニング期間を必要とし、ピーキングが難しいという競技特性からも、代表決定の時期を早める必要性に対する議論がありました。

本戦と選考レースの絶対的に異なる条件

これまでの選考レースは前述の4レースが主でした。いずれも冬の開催です。しかし本戦は8月のため北半球で開催される場合、気象条件が真逆です。

そのため、選考レースでは好結果でありながら、本戦では結果が伴わない、実力を発揮できないという事が問題点でした。

これらの問題点を解決し、五輪で戦える選手を選出するためのシステムとして採用されたのがMGCです。

MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)

2017年8月1日〜2019年4月30日までの間の選考期間内で、規定の条件を満たした選手が出場権を獲得。

2019年9月15日に開催する東京五輪マラソン代表選考レースMGCの上位2人が出場権を獲得。残りの1人は2019年冬〜2020年春にかけて行われるMGCファイナルチャレンジで規定タイム(男子:2時間5分49秒)を突破した者、もしくは突破者がいない場合はMGCの3位の選手が選出されます。

選考条件

選考5大会

北海道マラソン
福岡国際マラソン
別府大分毎日マラソン
東京マラソン
びわ湖毎日マラソン

上記5大会での規定の順位・タイムを突破した者

ワイルドカード

選考期間内に2時間8分30秒以内
成績上位2つの平均タイムが2時間11分0秒以内

従来の選考システムとの大きな違いは、選考レースを突破して出場権を獲得しなければ、選考レースであるMGCに出場できない点です。

このシステムでは、MGCの選考レースでの結果が求められるため、選考レース・MGCと最低でも2つのレースでしっかりと結果を残す必要があります。これによって選考レースの1発だけ良くて運良く代表に選ばれるというケースはなくなり、勝負強さや調整能力といった五輪本番で必要とされる能力を求められます。

また、MGCの開催が東京五輪の約1年前ということで、気象条件が本番を想定して行われるため、暑さへの耐性が必要になります。そして代表権獲得後に本番まで期間が十分にあるので、トレーニングを継続することができピーキングもしやすいという利点があります。

MGC出場選手30人による3枠をかけた争い

選考レースで出場権を獲得したのが31人。一色恭志選手(GMOアスリーツ)が怪我のため欠場を発表しました。よって30人による代表権をかけた戦いとなります。

ここで注目したいのが代表権3枠目の選考要件です。MGCファイナルで代表権獲得となる規定タイムが2時間5分49秒。このタイムは選考期間中の最速タイムによって設定されており、女子が松田瑞生選手(ダイハツ)の2時間22分23秒。男子が大迫傑選手(ナイキ・オレゴンプロジェクト)の2時間5分50秒。これらを1秒上回ったタイムが設定されています。

女子は2時間22分台のため、MGCファイナルにしっかりと調整できた選手は、突破は可能なタイムとなっています。

一方男子では、大迫選手の記録2時間5分50秒は日本記録です。現状この記録を突破できる可能性がある選手は、大迫選手自身と設楽悠太選手ぐらいだと筆者は予想しています。

つまり3枠目は、MGCで大迫選手と設楽選手が代表権を逃した場合のみ、狙えるチャンスがある記録だと思います。
よって男子は、MGCの3枠がそのまま代表権を獲得する可能性が非常に高いため、終盤もより一層熾烈な争いが予想されます。

大本命、大迫傑を筆頭に設楽・井上が対抗馬!服部は状態次第

さて、いよいよMGCの予想をします。
何と言っても、マラソン日本記録保持者の大迫傑(Nike)が優勝候補の筆頭でしょう。

大迫傑

大迫選手は大学卒業後に、拠点をアメリカに移し日清食品に1年所属した後、アメリカにある世界最高峰の長距離チーム、ナイキ・オレゴンプロジェクトにアジア人で唯一所属しています。

高校・大学時代も高校駅伝や箱根駅伝、ユニバーシアードで結果を残していますが、オレゴンプロジェクト加入後により一層力をつけトラック種目の3000m・5000mで日本記録を更新。学生時代に課題のあったラストスパートや、疲れてきた時に上体がブレて失速に繋がっていたのも、アメリカでのスピードトレーニングや専門トレーナーによるフィジカルトレーニングで克服。2017年と2018年に日本選手権10000m連覇。勝負強さを兼ね備えて、マラソンに転向後もボストンマラソン・福岡国際マラソンと好タイムで走り、2018年シカゴマラソンで日本記録を更新。まさに優勝候補の大本命と言えるでしょう。

また、大迫選手には心理的優位な点も存在します。それは「皆が知らない事をやっている」という点です。
日本のトレーニング方法はある程度周知されています。プログラムやアプローチは若干違えど、そこまで差はありません。

しかし、大迫選手はオレゴンプロジェクトがトレーニング内容を公開していないこともあり、謎に包まれています。その中で誰が見ても明らかに競技パフォーマンスが向上している事や、近年のトラック種目で意図的にロングスパートをして次元の違う勝負をしていたことなどから、周囲のライバルも一目置いている存在。そこが大迫選手の目に見えない優位に立っている点です。

1つだけ気がかりなのは、今年の東京マラソンを棄権した点。
調整段階から問題があったという事を伝え聞いていますが、今回はその失敗の経験を踏まえて調整してくると思います。
筆者の後輩という事もあり、大迫選手推しが長くなってしまいました。

設楽悠太

設楽悠太(HONDA)選手は、2018年東京マラソンで2時間6分11秒の日本記録を出しました。実に16年ぶりの日本記録更新。また、設楽選手はロードレースで滅法強く、ニューイヤー駅伝でエース区間の4区で異次元の走りを披露しています。ハーフマラソンで1時間0分17秒の日本記録保持者でもあります。

今年7月のゴールドコーストマラソンでは、2時間7分50秒の大会新記録で優勝しています。終盤になっても淡々と走る姿から、これまでマラソンの後半で少し失速気味だった課題を克服。

MGCでポイントとなるのは、設楽選手は走りが非常に軽くハイペースのレース展開を得意としており、スローペースになった時に足のスムーズな回転にブレーキがかかり余計な力を使ってしまう可能性があります。これが終盤の上り坂でどう響くか。設楽選手としては前半からのハイペースもしくはどこか早めのタイミングで仕掛けて、ラスト5kmの段階で勝負をすでに決めておきたいところです。

井上大仁

井上大仁選手(MHPS)は、2017年ロンドン世界選手権のマラソン代表で、設楽選手が日本記録を出した同レースで2時間6分54秒と当時の日本歴代4位の好タイムをマークしました。また、その結果で選出されたアジア大会で、高温多湿な悪条件の中で、ラストスパートによってバーレーンのエルハサン選手を振り切って優勝。タイムと勝負強さを兼ね備えた選手です。トレーニングも非常に質が高く、実業団合宿でも異次元のトレーニングを行うという事で、周りの実業団選手が驚くほどです。

大迫・設楽両選手と大きく違う点が、仮想MGCでもあったアジア大会で優勝した事です。気象条件の悪い中でのマラソンは通常以上にタフなレースとなります。そこで勝ち切った経験は相当なアドバンテージとなります。スローペースになった場合、終盤32km付近で仕掛けると筆者は予想しています。

服部勇馬

服部勇馬選手(トヨタ自動車)は、2018年福岡マラソンでMGC出場権獲得後に会心のレースはありませんが、ラスト7.195kmはMGC出場選手の中で最速です。これは福岡国際マラソンでの自己記録2時間7分27秒のタイム以上にインパクトがあり、しっかりと調子を整えてきたら、ラストになった時に上下動のないフォームでそのまま押し切りに行く事も可能。そうなれば優勝争いも十分に考えられます。

佐藤悠基・中村匠吾・神野大地が先頭集団で粘れば・・・

上記の選手以外に、佐藤選手(日清食品)・中村選手(富士通)・神野選手(セルソース)が先頭集団にどこまでつけるかで、後半面白くなってくると思います。

試合巧者の佐藤選手は日本選手権10000mで4連覇を達成。また中学時代から世代のトップばかりでなく日本のトップとして長く君臨し、ロンドン五輪に出場している事からも、代表選考レースでの勝負強さは群を抜いています。近年ではマラソンでも安定している事や、フォームをマラソン用にシフトしてからもハーフマラソンでもきっちり走っている点からも30km以降になればレースの駆け引き・引き出しの多さからきっと代表争いに絡んでくるでしょう。

中村選手は、気温が高くなった悪条件のレースとなった2018年びわ湖毎日マラソンで代表権を獲得。同年のベルリンマラソンでは有力な日本人選手が複数参加した中で2時間8分16秒の自己記録で日本人トップ。上下動のないフォームと腕振りのリズム。大胆なペースアップも可能なため、ポイントとなる30kmでレースをかき回す可能性があります。

神野選手は、ケニア・エチオピアでトレーニング合宿を実施。標高2000m以上の場所で質の高いトレーニングを積めている事や、フォーム改良によって、推進力に繋がるスムーズなフォームに移行している事。また、2019年東京マラソンでの後半の追い上げなど粘り強さがある事からも、後半面白い存在になると思います。また、MGCのレース終盤は上り坂が多く、上り坂を得意としている神野選手が終盤まで先頭争いに残っていれば、アドバンテージは効果大です。

レース展開予想

スローペースの可能性

レースは前半からスローペースが予想されます。理由は、先頭で走るより後ろに付いた方がエネルギーロスが少なく、明らかに有利だからです。よく駅伝やマラソンでも誰も前に出ずにスローペースになり

「何で先頭に出ないの?」

と疑問に思う方も多いと思います。

先頭を走るのは、風の抵抗を受けて力を消耗する事や、後ろにつかれるのを嫌う事から避ける人がほとんどです。
特にタイムは関係なく順位を重要視している大会では尚更です。後ろに力のある選手がいる場合、かなりの確率で中盤から後半で余力の差から勝負に負けてしまいます。

また、有力選手同士で出方を伺って牽制する事からもスローペースになりがちです。

上記の理由から、前半からスローペースになると予想します。

設楽選手のもしかしたら!?

しかし、MGCでは前半からハイペースになる可能性もあります。それは、設楽選手が飛び出した時です。

上述のように設楽選手の走りの特徴は、足の回転力です。筋力ではなくより軽さのある回転で走るタイプの選手は、スローペースになった場合、足がブレーキをかけてしまいエネルギーロスが大きくなります。

そうなると後半に力が残っていない危険性があるため、早めに自分のペースでリズムに乗ってハイペースで推す可能性があります。
おそらくハイペースになった場合、対応できるのは大迫選手と井上選手ぐらいです。

それなら早めに3人の戦いに持っていき、仮に負けたとしても代表権を獲得できればという考えになる可能性もあります。設楽選手の場合、スローペースで皆が自重し力が自分より劣る選手が終盤まで残っていることの方が心理的にきつくなるからです。

終盤の上り。どれだけ足が残っているか

順位を決定的にするレース終盤。MGCではそこで待ち受ける関門があります。
35km以降の連続した上り坂です。

本来、フラットコースでも30km以降は失速する事がほとんどです。そこに上り坂が待ち構えている。

「きっちりとトレーニングを積んで足ができている」
「レースで終盤までいかに力を温存できるか」

この2つがMGCでの重要なポイントです。

MGC 参加選手

村澤明伸(日清食品)
大迫傑(Nike)
上門大祐(大塚製薬)
竹ノ内佳樹(NTT西日本)
園田隼(黒崎播磨)
設楽悠太(HONDA)
井上大仁(MHPS)
木滑良(MHPS)
宮脇千博(TOYOTA)
山本憲二(マツダ)
佐藤悠基(日清食品)
中村匠吾(富士通)
岡本直己(中国電力)
谷川智浩(コニカミノルタ)
大塚祥平(九電工)
中本健太郎(安川電機)
藤本拓(トヨタ自動車)
服部勇馬(トヨタ自動車)
福田穣(西鉄)
橋本崚(GMOアスリーツ)
岩田勇治(MHPS)
堀尾謙介(トヨタ自動車)
今井正人(トヨタ自動車九州)
藤川拓也(中国電力)
神野大地(セルソース)
山本浩之(コニカミノルタ)
河合代二(トーエネック)
高久龍(ヤクルト)
荻野皓平(富士通)
鈴木健吾(富士通)

さぁいよいよ明日迎えるMGC。東京五輪マラソン代表が決まります。現地で応援される方、テレビで応援される方、出場選手に皆で熱い声援を送りましょう!

写真提供:Yukari

ABOUTこの記事をかいた人

OFFICE YAGI Inc. CEO|全国展開するランクラブ「RDC RUN CLUB」|銀座・目黒の低酸素ジム「RDC GYM」|ケニア共和国・イテンで世界一を目指すランニングチーム「RDC KENYA」|パーソナルジム「KARIV GYM」 日本のみならず世界でウェルネス・ランニング事業を行う。