9/15(土)8時50分スタートで行われた、東京五輪マラソン日本代表選考レースMGC。
事前のMGCのレース予想記事
東京五輪マラソン日本代表が決まる!!MGCの男子レース予想と知っておきたいポイント!
が的中した波乱の幕開けと、集団で突入した35km以降の難所の上り坂での争い。
MGCのレースを総括します。
宣言通り!スタート直後に飛び出した設楽悠太
戦前にハイペースに持ち込むことを示唆していた設楽悠太選手(HONDA)が、宣言通りにスタート直後の曲がり角から一気にペースを上げました。
設楽選手を追う選手はいない。早速レースが大きく動きました。
設楽選手は淡々と1kmあたり3分切りのペースで刻んでいきます。一方で後方の集団は3分10秒を超えるスローペースに。
5km通過タイム
設楽選手:14分65秒
後続集団:15分56秒
1分差
設楽選手との差がかなり広がっていく一方で、後続集団は誰もペースを上げずに牽制する展開が続きます。
すでに設楽選手が先頭にいるため、ここでもう1人飛び抜けさせるわけにはいかないというのは皆周知しています。
ここで先頭を引っ張ることになれば体力を消耗するため、前に出られない。こういった心理状況から牽制した状態となったと考えられます。
自分のリズムで走る設楽選手、牽制しながらの後続集団
設楽選手が先頭で自分のリズムで走り、後続は牽制しながらレースは進んでいきます。
10km通過タイム
設楽選手:29分52秒
後続集団:31分36秒
1分44秒差
5km地点よりも更に差は広がります。テレビの解説にありましたが、設楽選手の所属先であるHONDAは1kmごとにチームスタッフが配置され応援ということで、このレース展開は事前に決まっていたのかもしれません。1kmごとに後続集団との差を教えてもらえれば、心理的にも落ち着いてレースを進めることができます。
また、当初予想されていたより気温が高く27.5度、湿度が60%という状況になったこともあり、選手は汗をかなりかいている様子です。給水地点では、ドリンクを飲むだけでなく、頭から水を被ったり氷水を手で持って体温を下げようという動きが多く見られます。
ついに後続集団に動きが!集団は一気に縦長に、そして優勝候補にまさかの
設楽選手は淡々と1km3分0秒〜3分5秒の間を推移して走っています。動きはいつもと変わらず安定したフォーム。
一方で後続集団でも動きがあります。
山本憲二選手(マツダ)が飛び出して集団が一気に縦長になります。これにすぐに対応した選手が神野大地選手(セルソース)、そして徐々に差を詰めていく走りをしたのが、大迫傑選手(Nike)、服部勇馬選手(トヨタ自動車)ら優勝候補の選手達です。
しかし、ここで優勝候補の1人である井上大仁選手(MHPS)が集団についていけません。
はじめは集団の後方で様子を伺っているのかと思っていましたが、ペースアップに対応できず2位集団から大きく離れてしまいました。
また、2位集団では、服部選手が山本選手に声をかけていました。おそらく集団が縦長になりある程度の人数に絞られてきたので、このままペースを落とさずに走ろうという事を伝えていたのだと思います。
その後20kmの手前で、鈴木健吾選手(富士通)がペースアップします。
このペースアップによって2位集団も一気に縦長になり、服部選手、中村匠吾選手(富士通)、大迫選手を含む4人になりました。
神野選手は苦しい表情で少しずつ離されていき、後続集団に飲み込まれていきます。
20km通過タイム
設楽選手:1時間0分4秒
2位集団:1時間2分0秒
1分56秒差
設楽選手は依然として1km平均3分ペースで走っています。そして後続集団は山本選手や鈴木選手のペースアップもあり、差はそこまで広がっていません。
設楽選手がこのリズムのまま走っていけば優勝の可能性が非常に高い差になっています。
設楽選手に異変が。ペースダウンによって2位集団との差が徐々に迫る
25km通過タイム
設楽選手:1時間15分33秒
2位集団:1時間17分21秒
1分48秒差
少し差が詰まってきたものの、設楽選手はリズム良く走れています。また、2位集団には藤本拓選手(トヨタ自動車)が追いつき後ろからロンドン五輪入賞者の中本健太郎選手(安川電機)と大塚祥平選手(九電工)、橋本崚選手(GMOアスリーツ)、竹ノ内佳樹選手(NTT西日本)が追ってきます。
そして橋本選手が集団に追いついて引っ張ります。動きがかなり良く、2位集団のペースがじわりと上がると同時に、牽制による無駄な動きもなくなり動きが皆前半より良くなっているように思います。
30km通過タイム
設楽選手:1時間31分43秒
2位集団:1時間33分0秒
1分17秒差
設楽選手がペースダウンしており、3分15秒を超えるペースになってきました。これによって2位集団との差が一気に縮まってきました。
25km以降に2位集団を追っていたメンバーが加わり、9人となり中本選手が引っ張る場面も。給水の様子から選手達はかなり体力を消耗しています。
35km通過タイム
設楽選手:1時間48分37秒
2位集団:1時間49分12秒
35秒差
設楽選手は1km3分20秒を超えるペースとなっており、2位集団との差が一気に縮まっていきます。2位集団からすれば、先頭の設楽選手の姿が徐々に大きくなっていくので、心理的にもかなり元気になります。
また、2位集団では鈴木選手が積極的に仕掛けていて、出場選手中最後にMGC出場権を獲得した鈴木選手ですが、箱根駅伝2区で区間賞を獲得するなどロードでの適性は抜群。富士通入社後は怪我に悩まされていたようですが、見事にMGCに合わせてきました。
遂に設楽選手を捉えて先頭が入れ替わる。勝負は終盤の上り坂へ!
37.3km付近、遂に設楽選手を2位集団が捉えます。設楽選手は全く対応することができません。力を使い果たし大きくペースダウンしています。
設楽選手がここまでのペースダウンになった要因として
・夏場の暑いレース
・スタートから飛び出して1人で走る
この初めての条件がMGCで2つ重なったことが考えられます。1人で走るということはそれだけ難しいことなのです。
おそらくこれまでに経験したことのない身体の状態になっていることでしょう。
一方、集団が横長になります。全員がどこで仕掛けるか狙っている状態です。
そして40km手前で中村選手が上り坂を利用して一気にロングスパート。
ここで、独走態勢に入ろうとしています。追うのは服部選手と大迫選手。後続の6人はついていけません。
3人の意地の戦い!そしてラストスパート合戦へ!
40km通過タイム
中村選手:2時間5分10秒
服部選手:2時間5分14秒
大迫選手:2時間5分15秒
中村選手が4秒差をつけてトップ。服部選手と大迫選手が追います。大迫選手は目一杯腕を振ってがむしゃらな状態。ここまでの大迫選手の気迫の走りはなかなか見たことがありません。
そして41km付近で、大迫選手が中村選手に並びます。ここまで来ると最後は気持ちと身体がどこまで残っているかです。
そして中村選手が再びスパート。大迫選手がついていけません。
そして大迫選手が後ろを振り返ります。服部選手が後ろから追ってきます。
中村選手はそのまま振り切って優勝。見事な2段階ロングスパートでした。そして服部選手が大迫選手を追い抜き2位でゴール。大迫選手が3位でゴールしました。
出場選手中、一番粘ったのは大迫選手
中村選手は大学時代からロングスパートを得意としています。それが今回は更にグレードアップしていました。
服部選手は福岡国際マラソンを制して勝ちを知っています。特にラスト2.195kmのスピードは出場選手中トップでMGCを迎えていました。最後の執念のラストスパートはさすがです。
そして大迫選手。大迫選手は序盤から調子が悪そうに見えました。集団が牽制していた時から、上下動と横ぶれがあり相当力を使っている走りをしていました。
30km以降何度も脇腹を抑えるシーンがありました。これは内臓のダメージの他に、上半身が力んでいて動きがいつもと違ったことも要因だったと考えられます。
今大会、最も注目された大迫選手。当然重圧もあったように思います。
そんな中、最後まで何事もなかったようにトップ争いを繰り広げた大迫選手の凄さ。
MGCには順位やタイムだけでは測れない選手の凄さが詰まっていると感じました。
他の選手も同様に
本大会が引退レースになる選手
怪我で万全な状態を合わせられなかった選手
好調で迎えることのできた選手
様々な境遇の中、9月15日を迎えペースメーカーなしの完全勝負となる東京五輪代表選考レースを走る。
いろんなドラマがあります。男子30人のドラマが詰まったレースだったように思います。
代表3枠目はより一層熾烈な争いへ!完全スピード決戦への挑戦!そして大迫の決断は!?
MGCにより、東京五輪マラソン日本代表の2枠が決まりました。残りの1枠がどうなるのか。
選考条件は
・2019年度の福岡国際マラソン、東京マラソン、びわ湖毎日マラソンの3レースで設定タイムである2時間5分49秒を突破した者の中で最速タイムで走った1名
・上記レースで設定タイム突破者がいない場合、MGCの3位の選手
となっています。
つまり、大迫選手の持つ日本記録の更新が3枠目の条件となります。
上記3レースで、日本記録更新が最も可能性が高いのは東京マラソンです。
・福岡国際マラソンは例年若干暑い。そしてコース特性として高速コースではない
・びわ湖毎日マラソンは風の影響を受けやすいことと、暑くなりやすい。また海外勢を含めたコースレコードでも2時間5分49秒より遅い
・東京マラソンは公認レースの中で、前半に下りがありそれ以外は起伏の少ない世界でも数少ない高速コースである
これらの理由から、MGC3枠目への挑戦は東京マラソンが濃厚です。
また、現状日本記録更新の可能性がある選手が、設楽選手を始め複数人います。MGC出場者以外にも、非常に能力の高いスピードランナーである村山謙太選手(旭化成)がいます。皆東京マラソンに出場し、1km2分57秒〜58秒のペースメーカーが設定され、挑戦することになります。
そこで大迫選手がどうするのか?
・自身の日本記録の更新とともに、他の挑戦者達に勝ち3枠目を取りにいくのか。
・他の挑戦者達の日本記録更新はないと判断し、東京マラソンには出場せずに五輪本番に向けて調整していくのか
難しい選択となります。視聴者は完全決着での3枠目を望む声も多いと思います。
しかし、MGCで普段とは異なる条件下のマラソンで心身ともにかなり消耗している中、半年後のマラソンに向けてトレーニングを行う。
そして代表内定後に再び五輪本番に向けてトレーニングを行う。
これは非常にタフです。そして、日本記録の更新は客観的に見ても相当難しいです。
・有力選手自身が絶好のコンディションで当日を迎えることができたとしても、更新が難しいレベルの記録であること
・気象条件やペースメイクどれか1つでも良くなかった場合、日本記録更新が極めて困難なこと
これらの理由からも、相当日本記録更新の可能性は低い。そこにMGC3位の大迫選手自身がトライするのかしないのか。
東京五輪マラソン日本代表の争いはまだ続く。
PHOTO BY Yukari