大学駅伝3冠メンバーの八木勇樹による、第95回箱根駅伝振り返り〜復路編〜

2019年1月2日3日に開催された第95回箱根駅伝。
早稲田大学時代3冠メンバーで現役ランナーである八木勇樹が、往路に続き復路も振り返る

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「大学駅伝3冠メンバーの八木勇樹による、第95回箱根駅伝振り返り〜往路編〜」

PHOTO BY Yukari

追撃開始

6区は青山学院大学の小野田選手が猛追。57分57秒の区間新記録の走りで先頭との差を縮める。しかし区間2位に東海大学の中島選手、3位に東洋大学の今西選手。いずれも快走したことでタイム差が20秒も縮まらず。

区間新記録の小野田選手(青山学院大学) PHOTO BY Yukari

これは青山学院大学にとっては計算外だったに違いない。東海大学・東洋大学は嬉しい誤算となった。通常区間賞、ましてや区間新記録となるとチームの雰囲気・流れは一気に変わる。しかしタイム差が縮まっておらず残り4区間で5分以上の差をひっくり返すことはかなり難しく、リスクを取って前半ハイペースで走るしか可能性がなくなってしまった。

区間賞の走りも縮まらず

青山学院大学の7区は林奎介選手。前年のMVPで区間記録保持者だ。今回は前半からハイペースで走り、先頭との差を縮める。東海大学の阪口選手も東洋大学との差を詰める。

7区は前半アップダウンがあり後半は平坦となる。後半から気温が上がってくることや、前半のアップダウンで足に疲労が溜まることで、終盤にペースダウンをしてしまうことが多い。

林選手は後半疲れが見えて区間賞は獲得したものの昨年の記録には及ばず。区間2位は阪口選手でトップ東洋大学と4秒差にした。

トップとの差を詰める快走の阪口選手(東海大学) PHOTO BY Yukari

不滅の記録ついに更新

東海大学の小松選手と東洋大学の鈴木選手が並走。前半ややペースを牽制していたことで追い上げる青山学院大学との差が縮まってくる。15km手前で東海大学の小松選手が飛び出し一気に差を広げる。東洋大学の鈴木選手は全くついていけず、襷を渡す時には東洋大学と50秒もの差となった。

そして1997年に樹立した不滅の記録と言われている、古田哲弘さん(山梨学院大学)の箱根駅伝最古の区間記録を更新。

8区は後半の遊行寺の坂や例年の向かい風で多くの選手が苦しんできたが、小松選手は鈴木選手の後ろにつくことで体力を温存しゆとりを持った状態で入れたのがタイムの伸びに繋がった。先頭を走っていた鈴木選手は1年生ということもあり、慣れないプレッシャーやレース中盤で力を使い果たしていたことで、小松選手から引き離された際に大きくペースダウンをしてしまった。

青山学院大学の飯田選手も東洋大学との差は縮めたが、この時点で優勝の可能性はかなり低くなった。

優勝が近づいた

9区東海大学の湊谷選手が快走。東洋大学との差を3分35秒に広げて優勝に大きく近づいた。

前のチームが見える位置と見えない位置の差はタイム差以上のものがある。何故なら走っている時に中継車やバイクなどが少しでも近づいていると気分が乗ってきたり自信を持って走ることができるが、前に何も見えない状態だと精神的にきつい状況となる。この境界が大体30秒・1分とあり、1分以上の差となってしまうと巻き返すにはゲームチェンジャーじゃなければ難しい。

9区で優勝を決定的なものとした湊谷選手(東海大学) PHOTO BY Yukari

ゲームチェンジャーとは、1人で駅伝の流れを変えることのできる選手のことである。いかなる流れで走ることになっても自分の力を出し切れる、または悪い流れであれば断ち切って流れを引き寄せることができる。具体的には下位で襷を受け取った選手がごぼう抜きをする場合がある。こういった選手は周りの選手やペースに惑わされずに自分の力を出して役割を果たすことのできるということでゲームチェンジャーと呼ばれる。

9区終了時点での3分35秒差は絶対的な差であり、何かアクシデントでも起きない限り逆転は難しい。特にこの展開の場合、最終10区は脱水などのアクシデントを回避するため前半からゆとりを持ったペースで走らせることが多い。1km3分00秒ペースで走れる選手には3分05秒ペースで走りラスト5kmぐらいから少しペースを上げる。大きく差が開いた場合はこういった戦略をとることもできる。

また、青山学院大学は吉田選手が区間賞の走りで東洋大学に8秒差と射程圏内に捉え3位で襷リレー。東洋大学の中村選手は区間19位で優勝争いから脱落し、後ろの青山学院大学も迫る展開になってしまった。この場合、青山学院大学は大差を追い上げてきているので精神的にもかなり良い状態で走ることができる。この時点で優勝は難しいのは分かっていたと思うが、2位を狙うという意味でモチベーションは上がってくる。

悲願の初優勝

東海大学の10区、郡司選手が優勝のゴールテープに向けて堅実な走り。

青山学院大学の鈴木選手が8秒差を2kmで逆転。しかし先頭の東海大学は見えない。
レースはそのまま進んでいき、ついにゴールの瞬間が。

東海大学、悲願の初優勝!

青山学院大学は5連覇ならずも復路で追い上げを見せて2位。たらればだが鈴木選手をもっと前半区間に配置して主導権を握っていれば流れは変わっていたかもしれない。

東洋大学は青山学院大学との復路スタート時の5分30秒の差を逆転されて3位。9区の区間19位が悔やまれる。

一方でシード権争いも熾烈。復路から逆転劇などもあり、明治大学・拓殖大学・中央学院大学・早稲田大学・神奈川大学で大接戦となったが9位拓殖大学、10位中央学院大学がシード権を獲得。

シード圏外11位12位の中央大学と早稲田大学 PHOTO BY Mari Tsuchiya

11位中央大学・12位早稲田大学はシード落ちとなった。明治大学は大きく順位を落とし17位となってしまった。

結果

総合

1位  東海大学   10時間52分09秒(復路新・大会新)
2位  青山学院大学 10時間55分50秒(復路新・大会新)
3位  東洋大学   10時間58分03秒
4位  駒澤大学   11時間01分05秒
5位  帝京大学   11時間03分10秒
6位  法政大学   11時間03分57秒
7位  國學院大学  11時間05分32秒
8位  順天堂大学  11時間08分35秒
9位  拓殖大学   11時間08分35秒
10位 中央学院大学 11時間09分23秒
11位 中央大学   11時間10分39秒
12位 早稲田大学  11時間10分39秒
13位 日本体育大学 11時間12分17秒
14位 日本大学   11時間13分25秒
15位 東京国際大学 11時間14分42秒
16位 神奈川大学  11時間15分51秒
17位 明治大学   11時間16分42秒
18位 国士舘大学  11時間16分56秒
19位 大東文化大学 11時間19分48秒
20位 城西大学   11時間19分57秒
OP   関東学生連合 11時間21分51秒
21位 山梨学院大学 11時間24分49秒
22位 上武大学   11時間31分14秒

区間賞

1区 西山和弥  東洋大学   1時間02分35秒 ※2年連続区間賞
2区 パトリック•ワンブイ 日本大学     1時間6分18秒
3区 森田歩希  青山学院大学 1時間01分26秒(区間新)
4区 相澤晃   東洋大学   1時間00分54秒(区間新)
5区 浦野雄平  國學院大学  1時間10分54秒(区間新)
6区 小野田勇次 青山学院大学 57分57秒(区間新)
7区 林奎介   青山学院大学 1時間02分18秒
8区 小松陽平  東海大学   1時間03分49秒(区間新)
9区 吉田圭太  青山学院大学 1時間08分50秒
10区 星岳   帝京大学   1時間09分57秒

総括

今回の駅伝は近年稀に見ぬ大激戦・逆転劇が目立った。
また、駅伝の流れを変える「ゲームチェンジャー」の後の区間が重要だと感じた。

青山学院大学は森田選手の走りで完全に流れを引き寄せたように思えたが、4区で失速。東洋大学は4区相澤選手の好走があったが、復路での失速もあり完全に流れを引き寄せることができなかった。

また、各大学の選手層が厚くなり選手のレベルも上がっていることから、一つのミスが命取りになる。

そういった点では復路の青山学院大学の追撃はさすがだった。4連覇していたことで追う展開の経験不足があったが、6区7区の連続区間賞から猛追した。
今回は5連覇と3冠がかかっていたためプレッシャーも大きかったように思う。特に3冠は出雲と全日本を獲らなければならない。青山学院大学は長い距離になり区間が増えるほど強みが増すチームだが、出雲と全日本を予期せぬ展開になることもあったが2つとも獲った。箱根駅伝では圧倒的な優勝候補だったことからどこか選手の状態を見極めたり、区間編成の中で他大学への警戒が薄まったりと油断もあったかもしれない。

一方で東洋大学は復路では今ひとつ力を発揮できなかった。トップで独走という利点を生かせず追いつかれてから後手に回ってしまった。9区の区間19位が悔やまれる。しかし11年連続3位以内という安定感は群を抜いていることから、このミスを翌年以降は修正してくるだろう。

東海大学は選手個人では目立った快走は8区で本大会 MVPの小松選手だけだったが、他の9人の選手が安定して高いレベルで走っていたためチャンスの掴める位置でレースを展開できたことが大きい。また区間賞ではなかったが、1500mを得意としている館沢選手が4区区間2位という長い距離への適性と快走を見せたことで、東洋大学に決定的な差をつけられずに5区そして復路へと繋げられたのが大きかったように思う。

今回欠場したエースの關選手も走れてはいたが、小松選手と郡司選手が良かったから起用しなかったと両角監督が言っていたように、チームとして仕上がりがかなり良かったと思われる。

一方でシード権争いでは、早稲田大学が12位と13年ぶりにシード権を落とした。2区で故障明けの太田選手が流れを作れずに下位争いを余儀なくされた。

駅伝の采配の難しさなど、総戦力とは別で戦略によって大きく順位が変動することを感じた今回の箱根駅伝だった。

ABOUTこの記事をかいた人

OFFICE YAGI Inc. CEO|全国展開するランクラブ「RDC RUN CLUB」|銀座・目黒の低酸素ジム「RDC GYM」|ケニア共和国・イテンで世界一を目指すランニングチーム「RDC KENYA」|パーソナルジム「KARIV GYM」 日本のみならず世界でウェルネス・ランニング事業を行う。