1人の日本人が自身の競技力アップのため、マラソン大国ケニアに乗り込んだ。そして5ヶ月後、トレーニングキャンプの建設を始めた。
後編では、RDC KENYAの概要が決定後、6月に再びにケニアに向かった八木勇樹に迫る。
記事の最後にはOFFICE YAGI設立の背景や今後の思いも語っています。
【前編】何故、ケニアに行ったのか?ケニアでRDC KENYA設立に至るまでの経緯はこちらから
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見ていないとすぐサボる?キャンプ地建設開始!
再びケニアへ
筆者:ケニアへ再び行った目的は?
今回は、僕自身のトレーニングとRDC KENYAプロジェクトを進めるために6月上旬にケニアに向かいました。4月のレース中に怪我をしてしまいトレーニングを積めていなかったので、目的としては脚づくりです。また自分のトレーニングと並行して、RDC KENYAのキャンプ地建設は5月下旬から始まっていたので、ケニアではどのように建設を行うのか、それを自分の目で見る必要がありました。
筆者:キャンプ地の建設はどうでしたか?
ブロックを積んでいました。材料などは僕の方でこだわって要望を伝えていて、丈夫な材質のブロックを使っています。ブロックにはいくつか種類があってコストが変わってきますが、1番良いものを使うことにしました。
6月はトレーニングを行いながら空いている時間は建設現場に行ってどのように建設を進めているのかをじっと見ていました。家づくりは見ていても全く飽きなかったです。また、現場の作業員には2回食事が出るのですが、少し量が少なかったので僕の方で差し入れを持っていくこともありました。すると、行く度に「ジュースを買ってくれ」「タバコを買ってくれ」と要望が増えていきました。笑
筆者:ケニアでの建設方法を教えてください
まず、日本の建設方法を知らないため、比較ができるか分かりませんが、僕の見たままを話します。
1.まずは地面の強化のため、建物を建てる周りの土を深くまで掘って、そこに石や岩などを入れていきます。
2.土とセメントと水を混ぜた手作り生コンクリートを流します。
3.1日置いて生コンが乾いたら、また石や岩を入れていき、また生コンを流します。こうして周りを強化して、地面はひたすら叩いて固くしていき、平にします。
4.外壁となるブロックを置いていきます。ブロックは少し間隔をあけて置いていきます。その間に生コンを流します。高さが180cm前後ぐらいまできたら、木材をブロック幅に加工して、設置していきます。
5.鉄柱を4本合わせたものをブロックの上に乗せ、生コンを流します。加工した木材を設置したのは、生コンがその形に固まるようにするためです。長方形に整った生コンの中には鉄柱が4本入っているため、天災や屋根の重さによって建物が倒壊するのを防ぐことができます。
6.ブロックを積んでいきます。
7.木材で屋根の骨組みを作ります。この屋根の骨組みは同じものを作ります。建物の大きさによっていくつ作れば良いかはある程度決まっています。
8.屋根の骨組みを建物に乗せたら、次は屋根の材料を設置します。材料には4種類ぐらいあります。
9.外壁を生コンで綺麗に整えていきます。ここまで工程が進むと雨が入ってこないため、同時に内装の作業に入ります。
とまぁこんな感じです。ここまでで、読者の離脱率が高いのではないでしょうか。笑
ちなみに、作業はめちゃくちゃゆっくりです。僕は単純にどうやるか見たかったので現場に行く頻度が高かったですが、誰も確認していない場合、ほとんど進まないそうです。笑
また、工程9の後に内装のタイルなどを選ぶのですが、自分でいろんな店に行って決めました。かなり大変でした。
筆者:建設は大変そうですね
大変でしたね。気が付いたらセメントの袋が外壁に挟まっていたり。
「後からセメントで固めるから大丈夫!」
と作業員は言うのですが、取ってもらいました。
僕が見ていないと全然動かずにサボっている作業員もいます。知り合いのヨーロッパ人は依頼して半年経ちますが、まだ何も始まっていないそうです。
メンバーは直接会って話して走って決める
メンバーを集める
筆者:RDC KENYAのメンバーはどのように決めているのですか?
メンバーは、直接会って何度か話したり走りを見て決めています。一緒にトレーニングをして、
「この選手、きちんと食事とトレーニングをすれば伸びるな。」
というのを感じられるのは、僕が現役をやっているからこそ出来ると思っています。なので、出会う場所は様々です。何気なくレースを見に行って順位とかではなく、走りが良いなと思って話しかけて何度かトレーニングを一緒にして加入した選手や、気が付いたら僕の手配した車に乗っていて一緒にトレーニングに行くことになって、走りが良くてそのまま加入したり。
だから、僕にとっては全員思い入れがあります。ホームページからメールで志願してきたケニア人もいます。ただ、志願してきてもすでに強いケニア人で僕のサポートを必要としていないなと感じた場合、加入させていません。
単純にサポートしたいという思いと、衣食住とトレーニングサポートによる育成でケニア人を強く出来ると確信を持っています。よって僕は、それまで結果をあまり出せていないケニア人でも、サポートをすることによりRDC KENYAで強くなってもらう事を考えています。
同時に、現地コーチを探す必要がありました。僕がずっと滞在できないためです。メンバーを集めていた6月〜7月の同時期に良いコーチにも出会いました。
ケニアで初めての危機に・・・
死ぬかと思った
筆者:八木さんのケニアでの6月以降のトレーニングや生活を教えてください
私はキャンプ建設やメンバー集めと同時にトレーニングを行っていました。
基本的には早朝のトレーニングがメインで午前と午後はキャンプ地を見に行ったり、日本の仕事をして夕方トレーニングをするという流れでした。6月と7月は順調にトレーニングを積んでいました。
しかし8月の上旬、土曜日のトレーニングで異変が起きました。土曜日のロングランの最中に腹痛になって途中でトイレに3回ほど行きました。その時は特に何も考えていませんでしたが、その日の夕方に
「少し体調が悪いな」
と感じたのです。
そして夕食後、完全に体調不良に。下痢になって何度も嘔吐しました。翌日もずっと上からも下からも出続けていました。笑 おそらく金曜日の夕食で何かが合わなかったか痛んでいたものを食べたのでしょう。
ケニアの地で1人でトイレとベッドの往復。そして「ケニアは病院が危険」ということを聞いていたので、病院には行けませんでした。「このまま死ぬかもしれない」と思いました。
筆者:大変でしたね。どれぐらい続いたのですか?
3日ほど続きました。しかし日本人の方とナイロビで会う予定がありました。体調は万全ではありませんでしたが、会食を1日ずらしてもらい無理やり強行しました。会食では、日本料理屋さんでしたので、今まで2ヶ月我慢していた日本食ということで、内臓がかなりのダメージを受けていたにも関わらず、普通に食べました。
すると、見事に内臓の機能が停止しており全く消化できませんでした。笑 結局6日間、日常生活をまともに送れませんでした。
いよいよメンバーが集まり、本格的なチームのトレーニング実施
メンバーとのトレーニング
筆者:その後チームでは、どのようにトレーニングを行っていたのですか?
現在のメンバーは8月中旬には揃っていましたので、トレーニングプログラムを決めて行っていました。トレーニング終了後には、皆で近くのレストランに行って食事をしました。
また、身体のケアも必要なので、マッサージなどのケアの出来る人を探しました。僕もケニアではマッサージを受けていましたが、1人でメンバー全員を診るのは大変なので、3人ほど見つけてやってもらっていました。
8月以降はメンバーはアパートのマッサージベッドで代わる代わるケアを受けていました。キャンプ地にはジムも完備する予定なので、環境が整えばケアだけでなく、フィジカルトレーニングなども取り入れていきます。
メンバーとのトレーニングが始まってからは、いろんな感情が芽生えました。トレーニングで僕がきつくなって集団から離れて終わった時、メンバーも相当な負荷でトレーニングを行っているため、僕は一度休憩を入れてから、合流してペースを引っ張ったりしていました。
友であり、ライバルであり、マネージャーであり、チームであり。メンバーとはいろんな関係性であるなと感じています。
一般的には、ケニアでは選手サポートというと、エージェントと選手の関係性しかないので、あくまでビジネスです。レース手配やスポンサー契約以外に、選手の事を考えて様々な取り組みを行うことはほぼありません。
よって、メンバーには「ケニア人ランナーをサポートする」という、僕のやっている事の意味などは初めは理解できていなかったかもしれません。
RDC KENYAの目指すものとは
筆者:今後のRDC KENYAの目指すもの、目標を教えてください
段階を踏む必要がありますが、将来的にはRDC KENYAの選手が活躍し、世界一のランニングチームになることです。しかし、世界一というのは実績だけではありません。メンバーが活躍する事によって、家族・親戚・友達も豊かになる。そうした輪が広がっていき、もっとケニア人に笑顔が増えれば良いなと思っています。
何年・何十年と経った時に、
「1人のアジア人がケニアにやってきて何かを始めた。そうしたら、何だか知らないうちに周りに笑顔が増えて、豊かになったぞ!」
僕がおじいさんになっているか、もう死んでいるかもしれません。そんな時に、このように多くのケニア人が思ってくれれば、僕の始めたプロジェクトRDC KENYAは意味のあるものになるのかなと思います。
また、これは僕の独立時からの思いなのですが、OFFICE YAGIを設立してYAGI PROJECTとして仲間とともに陸上界の発展や変革を起こそうと様々な活動をしています。
僕が死んだ時に
「あいつらがいたから陸上界が変わった。」
と思ってもらえるような活動をしなければいけないと思っています。
また、日本人でも独立して競技を継続する環境は厳しいです。
僕はもう若くありません。将来、日本人で世界で戦うことを志す若い選手が現れた時、現在の大学進学や実業団へ進むといった選択肢の中に、
「日本を飛び出して世界と戦うために海外に拠点を置いて活動する。」
そういった選択をする選手がいても良いと思うんです。
今はそういう思いや考えを持っていても実現させるのは難しいのが現状ですが、やがて僕達の経験を生かしてサポートできる環境を作りたいと考えています。
僕自身は、何だか競技者として悔しい気持ちもあるんです。
若いうちにこうしておけば良かった
こういう選択肢があったら良かった
もっと強くなれる方法はあったんじゃないか
それは自分の意志の弱さやその局面で選択する際の甘さなど、自分自身に原因があります。
そして自分の競技人生は巻き戻せません。
しかし、これからの若い選手にこうした思いをさせない。
そのためにも僕達で若い選手の夢や目標を実現できるサポート環境を整える。
実は、RDC KENYAを設立する背景にはこうした思いもあるんです。
僕はこのケニアという環境に大いなる可能性を感じました。
RDC KENYAを世界一のランニングチームにする。
そして日本や海外で世界を目指す選手が現れた時に、ケニアを拠点として競技を行うためのサポートをする。
ただ、僕自身の競技もまだまだ諦めていませんよ。
世界で戦うために今競技をしていますから。
RDC KENYAの初戦は、日本のレースとなった。2018年10月に早速6人が来日し、日体大記録会を走り好タイムをマーク。その後、横浜マラソンを走り上位を独占。
12月に千葉マリンマラソンを走って帰国するという、前例のない1ヶ月以上にわたる滞在で、幕を開けた。
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