ランナー必見!効果的・効率的にミトコンドリアを増やす最先端のトレーニング方法とは!?

前回の記事「マラソンを速く走りたい人は知っておきたい!!運動中のエネルギー代謝」では、ミトコンドリアが運動中のエネルギー代謝の主役であり、さらにアスリートや運動愛好家の競技力向上だけでなく、一般人の健康の保持増進にも密接にかかわる重要な細胞小器官であることをお伝えしました。ミトコンドリアは、持久的トレーニングを行うことで増やすことが可能であることは古くから知られています。

今回は持久的トレーニングに比べミトコンドリアをさらに効果的・効率的に増やすことができる最先端のトレーニングついて議論していきます。

近年注目を集めている「高強度インターバルトレーニング」とは?

高強度インターバルトレーニング(High intensity interval training, HIIT)とは、短い休止を挟みながら短時間・高強度運動を行うトレーニング方法です。普段、運動を行っている人にとってインターバルトレーニングという言葉は馴染み深く、また実際に行っている人も多いかと思います。

しかし、一般的なインターバルトレーニングとは異なり、HIITは一般に100%VO2max(注)の強度(10分間前後で疲労困憊となるような強度)ので行うものを指します。

有名な立命館大学の田畑泉教授らのグループが研究している、俗に“タバタプロトコール”と呼ばれる方法では、170% VO2max の強度(60秒前後で疲労困憊となるような強度)で20秒間の運動を行うことを、10秒間の休止を挟んで6~8回程度繰り返します。

また、McMaster大学のMartin Gibala教授らのグループが用いている方法では、30秒間の全力スプリント運動を4分~5分間の休止を挟み、4~6回程度繰り返します。したがって、ここで取り上げるHIITは一般に行われているインターバルトレーニングよりもかなり強度の高い運動であり、クルーズインターバルと呼ばれるようなLT強度~100%VO2max未満の強度で行われるトレーニングとは異なるものであることを前置きしておきます。

これらのHIITは効果的・効率的にミトコンドリアを増やし、競技能力を向上させる方法として注目されており、近年盛んに研究されています

(注) VO2max:最大酸素摂取量、決まった時間の間に体内に取り込める酸素の量。骨格筋のミトコンドリアの量とも関係が深い。最大酸素摂取量に至った時の運動強度を100%として相対的な運動強度の指標として用いられることもある。

代表的なHIITの紹介「タバタトレーニング」

Tabata et al. (1996)は運動習慣のある大学生を対象に以下のような群分けを行い、6週間のトレーニング介入実験を行いました。1)

  1. 70% VO2maxで60分間のトレーニングを週5回実施する群
  2. タバタトレーニング(20秒@170%VO2max+10秒レストを7-8回)を週4回行い、さらに週1回は70% VO2maxで30分+タバタトレーニングを4セットまで行う群

その結果、(1)の群で有意なVO2maxの向上が起こったことを報告しました。一方で、(2)の群でも同様に有意なVO2maxの向上(≒持久性運動能力の向上)が起こっただけでなく、優位なAnaerobicな能力の向上(≒短時間・高強度運動の能力向上)も起こったことを報告しています。

したがって、HIIT(タバタトレーニング)により持久性運動能力だけでなく、スプリントのような短時間・高強度運動の能力も高まることが期待できます。また、両群において同様のVO2maxの向上が報告されましたが、(1)の群のトレーニング時間は300分/週であるのに対し、(2)群はウォーミングアップを含めてもおよそ88分/週であり、これは約70%もトレーニング時間が短いということになります。

このことから、HIITはスプリントから持久性運動まで幅広い能力の向上に効果的であるだけでなく、トレーニングに要する時間の少ない効率的なトレーニング方法であると言えるでしょう。

代表的なHIITの紹介「スプリントインターバルトレーニング」

Gibala et al. (2008)によると、Gibalaらが用いているHIIT(Sprint interval training, SIT)でも同様な効果があると報告しています。2) 65% VO2peakで40-60分の持久的トレーニングを週5回、6週間行う群(ET群)に比較して、週3回、6週間のHIIT(30秒全力スプリント+4.5分休止を4-6セット)を行う群(SIT群)では、VO2peak (≒VO2max)やミトコンドリアの量の増加が同程度起こることを報告しています。

このことから、GibalaらのHIIT(SIT)でも、より少ない時間で効率よくトレーニング効果をもたらすことが明らかとなり、時間的効率の良いトレーニング方法であると考えられています。さて、Gibalaらの方法は30秒全力スプリント(~250% VO2max)という極めて運動強度の高い運動を用いたインターバルトレーニングであるため、中距離選手のトレーニングのような印象を抱く方もいるかもしれません。

しかし、実はSITは自転車エルゴメーターを用いた50kJタイムトライアル(2分程度の運動時間)のような短時間。高強度運動だけでなく、250kJ(17分程度の運動時間)や750kJ(60分程度の運動時間)のタイムトライアルといった長時間運動のパフォーマンスをも高めることが分かっています。3,4) つまり、30秒といった短時間・高強度運動を用いたHIITは、中距離選手のパフォーマンス向上だけでなく、長距離選手のパフォーマンス向上にも有効であると考えられます。

 

以上のことから、HIITはミトコンドリアの量やVO2maxを伸ばすことのできる時間的効率の良いトレーニング方法であるといえます。また、数十秒の高強度運動の用いたインターバルトレーニングであっても、短時間・高強度運動だけでなく長時間運動のパフォーマンスをも改善し、少なくとも1時間程度までの長時間運動のパフォーマンスを高めることが明らかになっています。

これらのことから、時間的制約を受ける人にとって、HIITはミトコンドリア量やVO2maxを効率的に増やし、競技能力の向上や健康の保持増進に有効な方策となりえます。

高強度インターバルトレーニングに取り組む際の注意点

では、実際に高強度インターバルトレーニングを行う際にどのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。

上記に挙げたHIITはあくまでその一例で、様々なバリエーションが考えられます。異なるバリエーションのインターバルトレーニングを行う際には、主運動の運動強度や運動時間、緩運動の運動強度や運動時間、反復回数などが変数として挙げられますが、トレーニングの目的に応じてこれらの変数を適切に調整しなければ思うような効果が得られません。

高強度インターバルトレーニングで適切なトレーニング効果を得るためには、高い運動強度で行うことが最重要です。

高強度インターバルトレーニングを行う際は少なくとも90-100% VO2maxの強度で行いましょう。陸上競技で例えるとおおよそ5000m-3000mレースペース以上の運動強度(9-15分程度で疲労困憊する運動強度)となります。まれに10000mやハーフマラソンのレースペースでインターバルトレーニングを行う人を見かけますが、このような場合では少なくとも高強度インターバルトレーニング特有の効果は得られません(しかし、レースペースに慣れるという意味でレース直前に行うのは一定の効果があるかもしれません)。

また、インターバルトレーニング時につなぎのジョギング(緩運動)などを短く、速くすることもしばしば見受けられます。これも休息時間の短縮や緩運動の運動強度の上昇につながり、結果として90-100 VO2maxを維持が難しくなります。つなぎのジョギングなどを短く、速くすれば主観的にはキツく感じますが、肝心な主運動の運動強度が低下し、高強度インターバルトレーニングの効果を適切に得られない可能性があります。

高強度インターバルトレーニングでは、主運動の運動強度を最優先して、少なくとも90-100% VO2maxの強度を保ったうえである程度の運動時間を確保し、緩運動の時間や強度、反復回数などを調整することが重要です。

緩運動の時間を長くしたり、緩運動の強度を落としたり、反復回数を減らすことは、結果として主運動の強度を高めることにつながります。なお、普段運動をされていない方が高強度インターバルトレーニングに取り組む際には、必ずメディカルチェックを受けて、自らの体力レベルに応じた変数の調整を行ってください。

以上のようなことに気を付け、ぜひ高強度インターバルトレーニングに挑戦してみてはいかがでしょう?

 

引用文献

  1. Tabata et al. 1996. Effects of moderate-intensity endurance and high-intensity intermittent training on anaerobic capacity and VO2max. Med Sci Sports Exerc 28:1327-1330.
  2. Gibala MJ et al. 2008. Physiological adaptations to low-volume, high-intensity interval training in health and disease. J Physiol 590:1077-1084.
  3. Gibala MJ et al. 2006. Short-term sprint interval versus traditional endurance training: similar initial adaptations in human skeletal muscle and exercise performance. J Physiol 573:901-911.
  4. Burgomaster KA et al. 2006. Effect of short-term sprint interval training on human skeletal muscle carbohydrate metabolism during exercise and time-trial performance. J Appl Physiol 100:2041-2047.

ABOUTこの記事をかいた人

東京大学大学院 博士課程(運動生理学) 日本学術振興会 特別研究員DC2 東京大学陸上運動部コーチ 科学的知見に基づいたトレーニング情報の発信を目指します。 短距離〜長距離走まで幅広い選手のコーチングを行なっています。