持久力UPに効果的な「Polarizedトレーニング」の実践方法とは?

前回の記事「効果的・効率的に持久的運動能力を高める”Polarizedトレーニングモデル”とは!?」では、低強度と高強度のトレーニングを強調する「Polarizedトレーニングモデル」と呼ばれる方法が、効果的に持久性運動パフォーマンスを向上させることをご紹介しました。

Polarizedトレーニングモデルは、国際大会で活躍するクロスカントリースキー選手、ボート選手、自転車選手、ランナーといった持久性アスリートの多くが用いていると報告されています。(1) また、十分にトレーニングされた被験者を対象とした介入実験においても、PolarizedトレーニングモデルによりVO2maxやLT、OBLAなど持久性アスリートにとって重要な要素を効果的に向上させることが報告されています。(2,3)

では、リクリエーショナルなレベルで持久性競技に取り組む方にとっても、Polarizedトレーニングモデルは効果的なのでしょうか? Muñoz et al. (2014)は、30名のリクリエーショナルなレベルのランナー(10kmが40分弱)にPolarizedトレーニングモデル(低強度:中強度:高強度=77:3:20)と閾値トレーニングモデル(低強度:中強度:高強度=46:35:19)の効果を比較しました。(4) その結果、10kmTTのパフォーマンスは両トレーニング群で有意に向上したが、その増加率はPolarizedトレーニングモデルの方が大きかったことを報告しています。このことからもリクリエーショナルなレベルの人にとってもPolarizedトレーニングモデルは効果的に競技能力を向上させる可能性が示されています。

これらのPolarizedトレーニングモデルの優位性を知ると実際にPolarizedトレーニングモデルを取り入れようと思う方もいるのではないでしょうか? しかし一方で、実際にPolarizedトレーニングモデルを取り入れようとした際には、その実践方法が分からないという方もいるかと思います。そこで、今回の記事では実際にPolarizedトレーニングモデルを活用する際に必要なトレーニング強度の分類方法についてご紹介したいと思います。

 

どのように低強度、中強度、高強度を分類したらいいのか?

Polarizedトレーニングモデルを取り入れる際に、一般ランナーの皆さんが困難に感じるものの一つが強度配分の決める際の「血中乳酸濃度が2mmol/lや4mmol/lになる運動強度」といった基準を知ることではないでしょうか? これらの指標は生理学的測定を行わなければ知ることは出来ず、多くのランナーは自らのLT(≒2mmol/l)やOBLA(4mmol/l)の時の走速度を基準にトレーニングのペースを決めるのは困難です。LTはおおよそマラソンレースペースくらいですが、OBLAに相当するのは5000m-ハーフマラソンRP程度で競技レベルや個人差によって大きなばらつきがあります。多くの場合、競技レベルが低いとOBLAは5000mRP相当で、競技レベルが上がるとハーフマラソンRP、すなわち1時間程度維持できるようになりますが個人差もあります。やはり、自己ベストタイムだけを用いて、正確にトレーニング強度配分を分類することは難しいです。

そこで、本日はSeiler and Kjerland (2006)の研究を参考に、心拍数や主観的運動強度(RPE)を基に強度を分類する方法をご紹介します。(1) 近年はウェアラブルデバイスの進歩により多くの一般ランナーの方がウェアラブルの心拍計を持っているかと思います。また、主観的運動強度を用いて方法に関しては特別な機器を必要とせずに自らの感覚に基づいて運動強度を評価することが出来ます。これらの方法を上手く活用すれば、多くの方が自らのトレーニングの強度配分を知ることにつながり、正しいトレーニングの評価・処方に近づくと考えられます。

 

心拍数を基準としてトレーニング強度を分類する方法

低強度<80%最大心拍数<中強度<90%最大心拍数<高強度

※最大心拍数=220-年齢で簡易に求められる(多少の個人差あり)

各トレーニングセッションの心拍数を基に各強度に分類する。

 

〇一定時間走り続ける練習の場合(Jogやペース走)は全体の平均心拍数をそのトレーニングセッションの心拍数としましょう。

例1:60分Jogをする場合、60分間の平均心拍数をそのセッションの心拍数とする

例2:20分のウォーミングアップ後、30分間のペース走をする場合、30分間のペース走の平均心拍数をそのセッションの心拍数とする

 

〇インターバルトレーニングの場合はインターバルジョグを除くメインの運動1本ごとの心拍数の最大値の平均をそのセッションの心拍数としましょう。

例:1000m×5の場合、1本目の心拍数の最大値+2本目の心拍数の最大値・・・+5本目の心拍数の最大値÷5をそのセッションの心拍数とする。

 

 

主観的運動強度(RPE)を基準としてトレーニング強度を分類する方法

低強度≦4<中強度<7≦高強度

各トレーニングセッションのRPEを基に各強度に分類する

〇各トレーニングセッションの30分後に各トレーニングセッション全体のきつさを0.5刻みで数値化し評価する。

 

心拍数やRPEで本当に正確にトレーニング強度を判断できるのか?

ここまでに心拍数やRPEを基準とした際の強度配分の評価法をお示ししましたが、では本当に正確な評価が出来るのでしょうか?

Seiler and Kjerland (2006)の研究では、血中乳酸濃度を基にした場合でも、心拍数やRPEを基にした場合でもほぼ同様にトレーニング強度配分を評価することが出来ると報告しています。(1) しかも、特筆すべきは心拍数を基にした場合とRPEを基にした場合、その一致率は92%ほどであったということです。これは、特別な器材がなくとも主観的なきつさを用いるだけでかなり高い精度でトレーニング強度配分を把握することが出来ます。

 

トレーニング強度配分を算出する具体例

トレーニング強度配分を算出するには、トレーニングセッション数を用いるのが一般的です。例えば、平均心拍数が80%最大心拍数以下のLong Jogは低強度のトレーニング1回、平均心拍数80-90%最大心拍数のペース走は中強度のトレーニング1回、1000m×5のインターバルで各インターバル走中の心拍数の最高値の平均が90%最大心拍数以上の場合は高強度1回と数えます。このように、各トレーニングセッションを分類していき各強度の比率を算出します。例えば、週に10回のトレーニングがあり、低強度7回、中強度1回、高強度2回なら低強度:中強度:高強度=70:10:20となります。

 

まとめ

Polarizedトレーニングモデルはリクリエーショナルなレベルから国際的に活躍するアスリートまで幅広い競技レベルのアスリートのパフォーマンス向上に有効であると考えられます。(なお、リクリエーショナルなレベルの人は閾値トレーニングや高強度インターバルトレーニング、高ボリュームトレーニングといったどのようなトレーニングモデルでも体力や競技力を高められます。個人にとってやりやすい方法や楽しく感じる方法をやるという選択もよいと思います)

実際にPolarizedトレーニングモデルを取り入れる際には、必ずしも生理学的測定は必要ありません。心拍数やRPEを用いた方法でもかなりの高精度でトレーニング強度配分を分類することが出来ます。今回ご紹介したような簡便で正確な代替法でトレーニング強度配分を算出し、最適なトレーニングを行う際の目安の一つとしてはいかがでしょうか?

 

 

引用文献

  1. Seiler and Kjerland. (2006) Quantifying training intensity distribution in elite endurance athletes: is there evidence for an ‘‘optimal’’ distribution?
  2. Stöggl and Sperlich. (2014) Polarized training has greater impact on key endurance variables than threshold, high intensity, or high volume training.
  3. Neal et al. (2012) Six weeks of a polarized training-intensity distribution leads to greater physiological and performance adaptations than a threshold model in trained cyclist.
  4. Muñoz et al. (2014) Does Polarized Training Improve Performance in Recreational Runners?

 

ABOUTこの記事をかいた人

東京大学大学院 博士課程(運動生理学) 日本学術振興会 特別研究員DC2 東京大学陸上運動部コーチ 科学的知見に基づいたトレーニング情報の発信を目指します。 短距離〜長距離走まで幅広い選手のコーチングを行なっています。