前回の記事「ランナー必見!効果的・効率的にミトコンドリアを増やす最先端のトレーニング方法とは!?」では、高強度インターバルトレーニング(HIIT)が短いトレーニング時間で効率的に最大酸素摂取量や持久的運動能力を向上させることを紹介しました。
HIITは、アスリートの競技力向上のみならず、十分なトレーニング時間を確保できない多忙な現代人の健康保持増進にも有効な方策であると考えられています。一方で、アスリートは一般にHIITのみならず、低強度~中強度のトレーニングも同時に行います。
競技能力を効果的に向上させるためには、低強度・中強度・高強度のトレーニングをバランスよく行う必要があります。今回の記事では、持久性アスリートが効果的に競技能力を伸ばすためにどのようなトレーニング強度配分をすれば良いのかを論じたいと思います。
トレーニングの強度配分を知るための“3ゾーンモデル”とは
まず初めにトレーニングの強度についてですが、今回の記事では一般的な分類方法の一つである“3ゾーンモデル”を基準にご説明したいと思います。(1) “3ゾーンモデル”は以下のような基準によりトレーニングを3つのゾーンに分類します。
・低強度(ゾーン1):血中乳酸濃度が2 mmol/l以下あるいは80%HRmax以下となるような強度
・中強度(閾値強度、ゾーン2):血中乳酸濃度が2-4 mmol/lあるいは80-88%HRmaxとなるような強度
・高強度(ゾーン3):血中乳酸濃度が4 mmol/l以上あるいは88%HRmax以上となるような強度
“3ゾーンモデル”を用いる際のゾーンの転換点となる強度(血中乳酸濃度2 mmol/lや4 mmol/l:OBLAとなるような強度)をLTカーブテストなどを行い事前に知っておくと適切なトレーニング強度配分に役立ちます。
※心拍数を指標とする場合は、ペース走やLSDの後半には同一強度でも心拍数は漸増することやインターバルトレーニングのような短時間・間欠的な高強度運動では心拍数の応答が遅いことなどの問題点があります。
持久的運動能力を効果的・効率的に高める“Polarizedトレーニングモデル”
近年の研究では、Polarizedトレーニングモデルという方法が効果的・効率的に持久的運動能力を高めることが報告されています。Polarizeという英語は、「(何かを)二分する」という意味を持ちます。Polarizedトレーニングモデルは、この言葉の意味の通り、トレーニングの大部分を低強度と高強度に配分(二分)し、中強度のトレーニングをあまり行わないという特徴があります。これまでに、国際大会で活躍するクロスカントリースキー選手、ボート選手、自転車選手、ランナーといった持久性アスリートの多くがPolarizedトレーニングモデル(低強度:総トレーニングの75%以上、高強度:15-20%程度)を用いていると報告されています。(2)
Polarizedトレーニングモデルの優位性を示す研究
Neal et al (2013)は、12名の十分に鍛錬を積んだ自転車選手を対象として6週間のPolarizedトレーニングモデル(POL,低強度:中強度:高強度=80:0:20)と閾値トレーニングモデル(THR,低強度:中強度:高強度=57:43:0)の効果を比較しました。(3) その結果、LTパワー、漸増負荷試験での最大パワー値(PPO)、95%最大パワー(95%PPO)での疲労困憊までの運動時間が、THRに比べ、POLで有意に向上したことを報告しています。
このことから、POLがPPOや95%PPOでの運動継続時間といった高強度運動の能力を効果的に高めることが示されました。また、一方で十分に鍛錬されたアスリートでは、LTそのものを伸ばすためには、LT付近の練習を増やすよりも高強度運動を増やすことが効果的であることが示されました。
さらに、Stöggl and Sperlich (2014)は十分に鍛錬を積んだ47名のランナー、自転車選手、トライアスロン選手およびクロスカントリースキー選手(VO2peak: 62.6±7.1 ml/kg/min)を対象として、9週間のPolarizedトレーニングモデルを含む4つのトレーニングモデルの効果を比較しました。
4種類のトレーニングモデルは以下の通りです。
Polarizedトレーニング(POL) 低強度:中強度:高強度=68±12: 6±8: 26±7
高強度インターバルトレーニング(HIIT) 低強度:中強度:高強度=43±1: 0: 57±1
閾値トレーニング(THR) 低強度:中強度:高強度=46±7: 54±7: 0
高ボリュームトレーニング(HVT) 低強度:中強度:高強度=83±6: 16±6: 1±1
その結果、VO2peakはPOL及びHIITで有意に上昇しました(POL:+11.7±8.4%; HIIT: +4.8±5.6%)。一方で、THR及びHVTではVO2peakの優位な上昇は確認されませんでした(THR: -4.1±6.7%; HIIT: +2.6±4.5%)。VO2peakの伸び率は、HIITでTHRに比べて、POLではTHR及びHVTに比べて有意に高値を示しました。
また、OBLA(血中乳酸濃度4mmol/lの強度)での走速度・パワーの伸び率もPOL及びHIITで有意に高値を示した一方で、THR及びHVTでは有意な伸びは確認されませんでした(POL:+8.1±4.6%; HIIT: +5.6±4.8%; THR:+1.4±4.3%; HIIT: +1.2±6.6%)。さらに、POLでの伸び率は、THR及びHVTに比べ有意に高値を示しました。
これらのことから、POLはTHRやHVTよりも効果的にVO2peakやOBLAでの走速度・パワーを向上させることが示されました。また、HIITでも同様の適応が起こったことから十分に鍛錬されたアスリートにとって低強度や中強度のボリュームを増やすことよりも、低強度運動と高強度運動をそれぞれ高い割合で組み合わせて行うことが効果的に競技能力を高めることにつながる可能性が示されました。
持久的トレーニングメニューを組む際の注意点
以上のような研究からPOLモデルを参考に持久的トレーニングメニューを組むことをお勧めします。POLモデルは一般に低強度:中強度:高強度=75: 5-10: 15-20 となるような頻度で行うものです。ウォーミングアップやクールダウンも含むJogやイージー走などの低強度のトレーニング頻度を高く保ちながら、LT付近の練習:高強度の練習=1:4~2:3となるようにポイント練習を組むことがポイントです。
また、低強度の練習の頻度を高く保つことは多忙な社会人アスリートには厳しいかもしれません。そのような場合は、時間的効率の良いHIITを中心に練習してもPOLモデルと類似の効果が得られるかもしれません。
今回紹介したような十分に鍛錬を積んだアスリートを対象とした研究によると、THRは運動能力の改善を起こしませんでした。また、エリートジュニア自転車選手やサブエリートランナーを対象とした研究でも、LT付近でのトレーニング量の増加は運動能力の改善を起こさない、もしくは効果的でないことが報告されています。(4,5)
一方で、普段運動していない人を対象とした場合は中強度のトレーニングにより持久的運動能力が向上すると報告されています。(6,7) また、トレーニングを積んだアスリートにとって、中強度のトレーニングによる刺激は、運動能力を高めるには不十分である可能性が示されています。(7)
以上のことから、普段運動をしていない人~リクリエーショナルなレベルの運動愛好家にとっては、THRモデルでも運動能力の改善を起こせる可能性がありますが、競技レベルが上がるにつれて運動能力をさらに高めるには、高強度トレーニングの頻度を増やすことが重要になってくるでしょう。
また、運動をしていない人(VO2max: <45 ml/kg/min)やリクリエーショナルなレベルの運動愛好家(VO2max: 45-55 ml/kg/min)が鍛錬を積んだアスリートと同じ水準のVO2max (>60 ml/kg/min)に達するまでは通常数年はかかるといわれています。(8)
しかし、 Hickson et al (1977)は 10週間のHIITにより8名のリクリエーショナルなレベルの運動愛好家のVO2maxが44%増加したことを、さらに8人中4人の被験者はわずか10週間のHIITトレーニングでVO2maxが>60 ml/kg/minに達したことを報告しています。(9)
このことからも、普段運動していない人や運動愛好家にとっても高強度のトレーニングは効果的・効率的に運動能力を向上させるために重視すべきトレーニングであるといえます(※普段、運動そのものや高強度運動を行っていない人は初めにメディカルチェックを受け、専門家の指導を受けることを強く推奨します)。
まとめ
持久性トレーニングを実施する際には、Polarizedトレーニングモデルがお勧めです。Polarizedトレーニングモデルはトレーニング強度配分が低強度:中強度:高強度=75: 5-10: 15-20(頻度)となるようなトレーニングです。効果的・効率的に運動能力を高めるには低強度と高強度のトレーニングを高い割合で組み合わせることが大事ですが、時間的制約を受ける人にとってはHIITを中心としても類似の効果が得られるかもしれません。THRモデルは、競技レベルのある程度高いアスリートにとっては、必ずしも有効ではない可能性があります。
引用文献
- Seiler and Kjerland. (2006) Quantifying training intensity distribution in elite endurance athletes: is there evidence for an ‘‘optimal’’ distribution?
- Stöggl and Sperlich. (2014) Polarized training has greater impact on key endurance variables than threshold, high intensity, or high volume training.
- Neal et al. (2012) Six weeks of a polarized training-intensity distribution leads to greater physiological and performance adaptations than a threshold model in trained cyclist.
- Guellich and Seiler. (2010) Lactate Profile Changes in Relation to Training Characteristics in Junior Elite Cyclists.
- Esteve-Lanao et al. (2007) Impact of training intensity distribution on performance in endurance athletes.
- Denis et al. (1984) Endurance training, VO2 max, and OBLA: a longitudinal study of two different age groups.
- (1997) Effect of training on lactate/ventilatory thresholds: a meta-analysis.
- (1968) Effect of physical training on oxygen transport system in man.
- Hickson et al. (1977) Linear increase in aerobic power induced by a strenuous program of endurance exercise.